私達の生活と地続きの鍼灸
おそらく多くの鍼灸師さんは、鍼を刺したり灸を据すえたりすることをすごい特別なことだとは感じていないと思います。
これは単に沢山場数踏んで慣れてしまったというだけではなく、私達が普段の生活でおこなっている挨拶したり、握手をしたりみたいな何気ない交流と鍼灸に同質のものを感じているからだと思います。
相手の「からだ」の変化に応じて自分の「からだ」の働きかけ方を変えて循環を回す
では、普段やってる私達の振る舞いとどういう風に同質なのでしょうか?とりあえず一言で言い切ってしまいます。
【相手の「からだ」の変化に応じて
自分の「からだ」の働きかけ方を変えて
循環を回すこと】
です。
具体例を上げてみます。
患者さんと初めて出会う
↓
顔つきや顔色、姿勢や歩き方、声から
患者さんの状態をイメージする
↓
お話を聞く
↓
患者さんの目的や意図を組む
↓
最初に抱いたイメージから
目的が実現しそうな方法やプランを考える
↓
患者さんの「からだ」を診させてもらう
↓
最初に考えた方法やプランが修正される
↓
患者さんに少し施術してみる
↓
患者さんの「からだ」の反応をよくみる
↓
さらに方法やプランを微調整する
↓
さらに少し施術してみる
↓
もう一度方法やプランを微調整する
↓
…繰り返す
↓
ある程度と目的へ達したら一回目は終了
一回の施術のなかで小さなグルグルを回しながらジリジリと目的へと近付いていくのがわかると思います。これは短いスパンで回す小さな循環です。
二回目以降には、長いスパンのグルグル回す循環もあります。
前回と会った時と比較する
(顔つき、顔色、姿勢、歩き方、
声、お話、診察、etc.)
↓
さらに方法やプランを微調整する
(場合によって方法やプランを変える)
↓
三回目以降も微調整を繰り返す
↓
…繰り返す
↓
目的達成へ導く
少し想像してもらえればわかるように、このグルグル回る循環って実は普段私達が何気なく行ってることそのものなんですね。
普段の私達がしてる交流
BさんがAさんに挨拶する場面を想像してみます
B:向こうの方から知り合いのAさんが
やってくるのが見えます
↓
Aさんは眉間に少しシワを寄せ視線がうつむき加減です
↓
B:「ああ、少し気分が落ち込み気味みたいだな」と感じる
↓
B:「こんにちは❗Aさん」と明るいトーンで挨拶してみる
↓
A:待っていたかのように「ああ、Bさん、こんにちは❗」
↓
B:顔つきの変化をみて
話し相手を欲しがっていることを察する
↓
B:「時間ありますか?座ってコーヒーでものみませんか?」と話しに誘う
↓
A:パッと顔が明るくなり「ぜひ!」と言う
↓
B:最初に感じたぼんやり感覚が確信へと変わり耳を傾ける準備をはじめる
どうでしょう?鍼灸師の行ってるグルグルと同じだと感じませんか?
相手の「からだ」を変化に
応じて調整して働きかける
↑ ↓
働きかけられた相手の
「からだ」の変化を観察する
というグルグル回る循環です。相手と自分の「からだ」を交流させ相互影響させながら、その流れにのりながら流されながらもコントロールしていくということです。
鍼灸のエッセンス…グルグル回る循環への意識
「確かに私達普段の交流と鍼灸は同じ部分があるのはわかった。けど、そんなのどんな仕事でも同じじゃない?」と思われるかもしれません。確かにそうです。
けれども、鍼灸の場面においては「からだ」の反応と変化はより微妙です。より細やかにその変化を追いかける必要があります。働きかけの微妙な差で全く違う結果へと転がっていってしまうからです。施術の姿勢、ツボの選び方や刺し方や強弱、はては声かけの在り方等といった変化です。鍼灸師はこのことに気付いていていつもこのことを強く意識しています。この意識の保ち方が他の仕事とは大きく違うのだと思います。
そして、この意識の保ち方こそが鍼灸のエッセンスなのではないかと私は考えています。

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