はじめに
鍼灸を専門としている施術所へ行くと、頭のてっぺんに鍼をされたという経験を持つ方が沢山おられると思います。
「腰痛なのになんで頭に鍼なんかするんだ?」とか、
「肩こりなんだから肩に鍼をしろよ!!」とか
思っている方も多いと思います。
中には、
ギックリ腰の痛みが頭の一本の鍼であらかた取れちゃったよ―というような体験をされた方もおられると思います。
をどうぞ・・・
気になる方はどうぞ・・・
頭の天辺になんで鍼なんかするのか?
なんで頭のてっぺんに鍼をするのか?―先回りして答えを言ってしまうと「やってよく効く」という実感が鍼灸師側にあるからです。しかし、鍼灸師の側からはよく効果が体感されているにもかかわらず、患者さん側にはこの効果が実感されていないことが多いと思います。
百会というツボ
この頭のてっぺんのツボを“百会”(ひゃくえ)といいます。
東洋医学系の鍼灸をキチンと勉強した鍼灸師なら最も多用しているツボの一つなのではないでしょうか?私の場合も“百会”毎日誰かの“百会”に鍼をしています。
それ位頻繁に使われているツボです。
よく使われていそうなパターンの例を上げてみます。
例1
肩こり→百会、肩井、合谷
例2
めまい→百会、臨泣、肝兪
例3
ギックリ腰→百会、腰痛点、臨泣
などなど
使われ方だけ見ていると○○に効くツボとはとても言えなさそうです。まるで万能のツボ扱いです。
私も駆け出しの頃は、こういった情報に触れるたびに、偉い先生が始めたことをろくに検討もせずにマネされることが延々と続いてきたためではないかと思ったりしていました。
肝気鬱結に使うと教わった
私が師匠について教わっていた時は、「“百会”は肝気鬱結に使うツボだ」と教わりました。
“肝気鬱結”とは精神的なストレスや緊張で全身の気血のめぐり悪くなると考える中医学系(現代中国の東洋医学)の専門用語です。
誤解を恐れずにこれを、気血≒血液としてわざと西洋医学的な言葉で読み替えてみます。
すると以下のような説明がもっとも近いものだと思います。
【“百会”は交感神経優位を副交感神経優位へと切り替えるツボ】
という説明です。
自律神経
交感神経と副交感神経とは全身の興奮と鎮静をコントロールしているとされている神経です。二つを合わせて自律神経と呼ばれています。自律神経の“自律”とは自ら律しているという意味です。私たちの意志とは関係なしに働き続ける心臓や胃腸の動き、汗の出や体温の調整などなどをコントロールしています。「ちょっと心臓を止めてみよう」などと出来ないのは自律神経が心臓を支配しているからです。
この自律的な働きの一環として、交感神経と副交感神経は互いに抑制しあうように働いて全身の血液の流れをコントロールしています。
交感神経が働くと末梢の血管が収縮して血行を悪くする
交感神経が働くと身体全体が興奮状態になります。日常的な感覚から言えば、やる気を出したり緊張したりして、体が活動的になっているような状態です。この時、細動脈と呼ばれる細い動脈は収縮して末梢にいく血液を減らしています。緊張すると手足の先が冷たくなるのはこのためです。
これは、狩りや闘争という激しい運動をする時に備えた反応だと言われています。素早い行動や適切な判断に必要な部位に血液を集中させてまず難局を乗り越えようよということです。つまり、脳、心臓や肺を巡る血管の回路に沢山の血液を集めて、そこに素早くクルクルと血液を回転させて必要とされる大量の酸素を取り込み司令塔である脳に送り込もうという体制だというわけです。その分、抹消の手足や腸といった部位への血液の供給は減らされて後回しにされるということです。
この末梢へ行く血液が減るのが一瞬ならそれほど問題がないのですがストレスや緊張が長く続くと末梢にある筋肉や臓器、神経といった部分には疲労がたまってきます。疲労を解消するための酸素や栄養素は血液が運んでくるからです。血液の配給が少ない状態が長引けば、そういった疲労は解消されず蓄積されることになります。疲労を抱えきれなくなった神経や筋肉は痛みや炎症といった様々な症状を引き起こすことになってしまいます。
精神的ストレスや緊張
↓
交感神経の興奮
(副交感神経の抑制)
↓
血管の収縮
↓
全身の血行不良
↓
痛みやコリなど
様々な症状
という風に全身へ影響を及ぼすのです。
副交感神経
これを解除するのが副交感神経です。副交感神経が働くと興奮していた身体は鎮静に向かいます。末梢の細動脈は開き血液が流れやすくなり、筋肉や内臓などに蓄えれれていた疲労は解放されてます。
つまり、交感神経と副交感神経は暴走しすぎないように互いに抑制しあっているという関係になっているのです。自律神経はそうやって、興奮と鎮静のバランスをとっていると言われています。
百会が緊張や興奮を解除して疲労を回復させる
この自律神経の緊張から鎮静へと戻ってくる仕組みを作動させるのが百会というツボだというわけです。
つまり
百会への鍼
↓
副交感神経の興奮
(交感神経の抑制)
↓
血管の弛緩
↓
全身の血行不良の改善
↓
痛みやコリなど
様々な症状の解消
と考えることができます。
【百会はこの副交感神経に働きかけて
細くなっていた細動脈を拡げて
血行を良くして疲労を解消する】
というわけです。
なるほど、この説明なら様々な症状に対して使われていても納得がいきます。
症状を緊張・興奮による血行不良からくる疲れや疲労の表面的な現れととらえれば
全く違う症状にそれぞれ効果があったとしても不思議ではありません。
その実感を鍼灸師は直接感じているから
やたら多用されるのだというわけです。
とりえずだけど・・・結論
【百会は緊張や興奮から鎮静へ向かわせるので
その疲労から来る様々な症状に対して効果がある】
ということです。
普段の鍼灸を施術している時の実感からいっても
この説明は納得がいくものです。
脈をみていると硬く縮こまった血管が百会で開いてくるのがわかります。
緊張して張りつめていた肌は、弛んで潤いを帯びてきます。
こういった体感的な感覚にも、この説明はフィットします。
けれども、
ちょっと疑問もあります。
この説明が間違っているとか言うのではないですが、
もうちょっと説明を加えたいような誘惑にかられます。
百会➁でこのことを次に書いてみたいと思っています。