腰痛③:西洋医学から見た腰痛

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腰痛症状
腰痛

はじめに

 

鍼灸や整体、養生といった方法ががいかに腰痛によく効くといっても、現在の西洋医学を無視するわけにはいきません。

 

まず第一に、西洋医学の外科的な治療を優先して受けた方が良いだろうなと思われるような症状の方が一定数居られるからです。外科的な処置をしないで保存療法だけしているだけでは、どんどん進行してひどくなっていきそうなケースです。西洋医学的な外科手術は進行を止めることがかなりの確率で出来ます。痛みを完全に無くすことは難しいことも多いですがどんどん悪くなって遂に歩けなくなってしまうのをくい止めます。またその中には、西洋医学的な読みがピッタリはまり、痛みをかなり減らしてくれるケースだってあります。そういったケースではそちらを頼るべきです。

 

もう一つは、私達の頭の中が西洋医学っぽい考え方や言葉に占められて、もう既に一杯だからです。東洋医学的な方法を実践するにしても、昔の表現や考え方をそのまま直接理解するのは私達には最早難しいのです。昔の生活や仕事を再現しながら追体験を行い昔の感覚を掘り起こしていくという方法もありえますが大多数の人にとってはほぼ不可能な方法です。

現代の日本人が東洋医学的な方法をうまく理解していくには、既にそれなりに知っている概念や言葉を掘り下げていく道がもっとも早い道であり、多くの人に開かれた道だと思います。

つまり、東洋医学的な方法を使うためにも西洋医学的な理解を深める方が近道なのです。

 

西洋医学的な腰痛の分類

 

現在の西洋医学的な腰痛の理解の仕方の特徴は、原因を身体の特定の場所に求めることです。(後何十年後かには変わっているかもしれませんが…)それは、解剖学的な視点で探せば腰痛の発生場所(≒原因)が見つかるはずだという考え方です。

この考え方も、ざっと見て以下の3パターンに分けられるように思います。

 

・骨・関節に原因を求めた腰痛

・神経が骨に挟まれることに原因を求めた腰痛

・筋肉・筋膜・腱に原因を求めた腰痛

 

以下、少し詳しくみてみましょう

 

骨・関節に原因を求めた腰痛

 

腰椎圧迫骨折

 

体重を腰の骨が支えることに耐えかねて、潰れてしまい腰痛を引き起こしていると考えるものです。圧迫骨折じだいは転んだり段差から落ちたりしたはずみになることもありますが、気がつかないうちに徐々に骨が潰れて時間をかけてなるものが多いようです。

この背景には骨が脆くなって潰れやすくなってしまっている状態があるとされています。ステロイド剤の長期使用、栄養摂取の偏り、運動不足や閉経・老化などによる骨粗鬆症です。

確かにレントゲンで圧迫骨折が見つかるような人は、腰痛持ちが多いです。けれども、圧迫骨折が見つかる人全てが腰痛持ちかと言うとそうでもないようなのです。

腰痛の自覚がない人が、別の目的でレントゲンを撮ったら圧迫骨折を指摘されたとか、

レントゲンの圧迫骨折の画像は何も変化してないのに腰痛がなくなったという方が結構おられます。圧迫骨折、即座に腰痛という単純なイコール関係ではないのがわかります。圧迫骨折は腰痛を引き起こす一つの要因ではあっても直接の原因ではないようなのです。

 

腰椎すべり症/腰椎分離症

 

腰の骨はだるま落としのように五つの腰椎が積み上がって出来ています。腰椎すべり症/腰椎分離症は重なった腰椎が前後にずれてしまった状態をさします。

上下の連結を担う椎間関節が前後にずれて上関節と下関節がはずれてしまってた状態のものを腰椎すべり症といいます。椎間関節がはずれないで、椎間関節の後ろにある棘突起が折れることで腰痛のずれるものを腰痛分離症というのです。

スポーツをさかん行っている中高生~大学生や成長期にハードなスポーツをしていた人によく起こると言われています。慢性疲労が腰の骨にたまって発生すると考えられています。

けれども、単純に疲れが溜まったいるからというだけでは良い説明とは言えないように思います。(スポーツ選手ならみんななってしまいそうです…)私の考えを言えば、腰の下の方に対して腰の上の部分を前へ突き出してしまうような力の入れ方を長時間してしまうことによって起こると考えて良いように思います。

つまり、反り腰を強調するような姿勢で力を入れ方をするモードに入ってしまい抜けられなくなってしまった状態と言えるのだと思います。

 

腰椎すべり症/腰椎分離症も、レントゲンで滑っている像が写っているからといって必ず症状を伴うわけではありません。レントゲンで腰腰椎すべり症/腰椎分離症を見つけても痛みを訴えていない人も沢山おられます。

ここでも、骨のズレや骨折≠腰痛という単純な図式では説明できないことがわかります

その他

ケガによる骨折もここに入るのでしょうが一般的には腰椎扱いはしないと思います。

あと、椎間関節という腰の骨と骨の間にある関節の炎症が考えられます。腰椎の関節炎はリウマチなどの膠原病や結核菌による脊椎カリエスなど全身疾患の症状の一部と扱われていることが多いのであまり腰痛と関連付けて考えることがありません。けれども、弱い炎症が椎間関節に起こって腰痛を引き起こしていることは多いのではないでしょうか?この弱い炎症があんまり相手にされないのは、レントゲンで写らなかったり、血液検査で数値に出なかったりするせいだと思います。今後、研究がすすむにつれてこういったことがもっと明らかになっていくのではと思います。

 

神経が骨に挟まれて刺激されるのが原因という観点

 

神経が挟まれると様々な症状が現れると考えられています。その神経の先につながる筋肉・皮膚の麻痺や痛みなどがそうです。その中でも神経の走行に沿って現れるビリビリとした電気が走るような痛みやピーンと走るような痛みは、これの代表的なものと考えられており、神経痛と呼ばれています。

 

腰椎椎間症

 

腰の骨と骨の間になんらかのトラブルがあり神経を刺激しているから痛みがでていると考えているパターンです。骨棘という変に伸びてきてしまった余分な小さな骨やその周囲に出来る偽関節のせいだとか、骨に挟まれた組織の炎症のせいだとか様々な説明がされます「腰椎4番と5番の間が少し狭くなっているので、このせいで腰が痛いのではないてしょうか」などと説明される時が腰椎椎間症を想定した説明です。

圧迫骨折や椎間板ヘルニアのようなレントゲンにしっかりと写るような骨の大きな異変が見つからない時に小さな変化を見つけてきて「このせいだ」と言っている感じが少しあります。

もちろん、この説明が間違っているというわけではないと思います。骨と骨の間のトラブルも確かに腰椎の一因を形成していると思います。けれども少し骨による刺激という説明に執着しすぎのようにも見えます。レントゲンをとると骨と骨の間が狭くなっていたり、骨棘が見つかるのに腰痛の自覚がないという人も居られます。

恐らく骨の変化だけの問題ではなく周囲の筋肉や結合組織全て含めた変化なのを骨だけみて判断しているせいではないかと思われます。

 

腰椎椎間板ヘルニア

 

椎間板という腰の骨と骨の間にあるクッションのようなものが飛び出してきて、となりにある神経を刺激することによって腰痛が発症すると考えているパターンです。もう少し正確に言えば、椎間板が斜め後ろへ飛び出してきて、脊髄から分かれて左右の腰へ伸びていく神経の根元(神経根)を圧迫するために腰痛が起こると考えるものです。左右どちらかの神経根を刺激するので症状は片側だけに出ます。また、神経の分岐した根元で起こっているので、圧迫された神経根の支配している筋肉や皮膚等に症状が現れることになります。

 

この椎間板が後ろへ飛び出させている力はどこからくるのでしょうか?私の考えを言えば、”丸くなった腰”です。腰が丸くなり前かがみの姿勢が普通になってくるとお腹がたわんで腹圧をあがにくくなります。その結果、上半身の重さが腰の骨の前半分に集中してかかることになります。

すると体重があまりかかっていない後ろへ向かった椎間板が飛び出してくると考えることが出来ると思います。枝豆の袋の端をギュっとおさえて中の豆を飛び出させるのと同じ原理だと思います。つまり、”丸い腰”というモードで固まってしまい腰の骨の前側にのみ負荷をかけ過ぎた状態だと言えるのだとおもいます。

 

ちょっと前はこの椎間板が飛び出してくれば必ず神経を刺激して痛み等が出現してくるとされていました。けれども、最近は必ずしも椎間板が飛び出している=神経根を刺激=腰痛とは考えなくなってきています。腰痛の訴えのない人にも、椎間板が飛び出した人が結構おられることがわかってきたからです。

腰痛の一筋縄ではいかない感じがここにも表れています。

 

脊柱管狭窄症

 

背骨の真ん中あたりを上下に走り抜ける脊髄が通りぬける穴(脊柱管)が狭くなって、脊髄が圧迫されることによっておこると考えられています。脊髄は真ん中にあって左右の神経が一本にまとまったものなので、下肢や腰の左右両方ともに症状が現れます。この点は腰椎椎間板ヘルニアと違う点です。手術を行って狭くなった脊柱管を広げることによって腰~下半身の痛みや脱力が劇的に改善する方も居られることから、この説明もピッタリ当てはまるケースも確実にある言えると思います。ただ、中には手術をして脊柱管の隙間が広くなったのがレントゲンで確かめられるのに痛みがあまり減らないという方がおられます。こういうケースからも脊柱管のみが腰痛の原因ではないということがわかります。脊柱管を一因として含めた腰まわり全体で起こっていることだと考えた方が自然なのではないでしょうか?

 

ちなみに脊柱管狭窄症は腰を丸めるように座りこんで休むと足のしびれや痛みが退いてきて再び歩けるようになるという特徴があります。これは腰骨を反らした状態が普通になってしまって起こった症状といえるのではないでしょうか?

すると、腰を”反り腰”モードに固定してしまったために起こった症状だと言えるのでと思います。この点から、腰椎すべり症/腰椎分離症と重なる部分があります。事実、腰椎すべり症/腰椎分離症があるだけでは症状はないことが多くあり、そこから脊柱管狭窄症を伴うようになってきて初めて症状が出てきたという方が結構おられます。

 

筋肉・筋膜・腱で起こる腰痛

 

筋筋膜性腰痛症

 

レントゲンやCTなどで骨の異常が見つけられないので、じゃあ、残った筋肉や筋膜のせいで起こっているに違いないと想像されて付けられる名前です。実際、腰痛を訴える人の80パーセントくらいが骨や神経に異常を見つけることが出来ないと言われています。つまり、大部分の腰痛の人はここに分類されることになると思われます。筋肉や筋膜で起こっているという視点は、おそらく、そんなに間違いではないと思います。確かに丁寧に触診等を行い筋肉を調べていけば、大抵、筋肉に何某かの異常(圧痛やコリ、痩せや虚脱状態)を見つけることが出来るからです。

ただ、

「ではなぜ腰のこの筋肉や筋膜に異常が出てしまったいるのか?」

という疑問には筋筋膜性腰痛症という言葉の背景からは伺いしることが出来ません。

 

私達鍼灸師の実感から言えば、筋肉の異常も様々な要因が折り重なって出来上がった結果が投影されたものです。

 

内臓の疲れ

精神的な緊張

姿勢の悪さ

仕事の仕方

などなどです

 

ここにうまく光を当てることが出来なければ、筋筋膜性腰痛症という立派な名前も役に立たないものになってしまうのです。

 

将来、西洋医学的な腰痛の分類も恐らくこういった背景を勘案されたものへと改変されていくと思います。そして、恐らくそれらに対処するには、自分自身で行う生活の改善や

「からだ」の動かし方を改善していくという東洋医学の養生と似たような方法がもっともオーソドックスな治療方法へとなっていくだろうと私には思われます。

 

まとめ

 

「腰が痛い」といって整形外科に行くと、大抵、レントゲンを撮られるのは、骨の異常が腰痛を引き起こしているに違いないという考え方が長らく私達の頭の中を支配してきたためです。腰痛の原因は体重で、その身体の重さを支えるのは腰で、その腰の中で重さを支えることが出来るのは解剖学的に観て一番硬い骨だろう―というシンプルな直観によっています。この洞察は間違いではありません。骨折した腰の骨を手術で再建したり、骨を削って一点にかかる過重を取り除いたりすると腰の痛みが無くなったり、減ったりする人がいるのがそれを証明しています。

 

けれども、そんな見方だけでは追い付かない部分があるのも確かなのです。腰は骨だけを使って支えているのでもなければ、体重だけを支えているのでもないのです。

 

付記

 

腰の外科的な手術に頼った方が良い場合

・筋肉がどんどん痩せてきて力が入らなくなってきている場合

・進行が早くどんどん状態が悪化していくような場合

・日や時間帯によって症状が変化する波が大きくないもの

・生活を少しずつ改善させていこうという意志が全くない場合、もしくは全く持てない場合

 

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