肩こり…その背後に控える要因

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肩こり illustration by フリーメディカルイラスト図鑑症状
illustration by フリーメディカルイラスト図鑑

外人さんは肩こりにならない?

私が鍼灸学校の学生だったころ、
外人さんは肩こりにならないらしい
―とか聞いて
ほんまかいな?とか
思っていたのを思い出します。
(外人というくくりのアバウトさも
ほんまかいな?な感じです)

今、考えてみると
外国にも肩こりはあって当たり前なんですよね。
「気血」がキチンとめぐらなくなった所は
どこでも痛くなる可能性があるのだから…

もちろん、国や民族の生活事情によって
割合なんかは変わるんでしょうけども…

どうやら言葉の使い方のせいで
日本語の‟肩こり”にピッタリな概念がないために
それに値する実態がないと
思われていたようです。

‟stiff neck”(こった首)
‟stiff back”(こった背中)」
‟stiff upper back”(こった背中上部の)」
‟stiff shoulder”(こった肩関節)」

などなど
日本語の‟肩こり”の範疇に
入っていたものは
寸断されてバラバラに
扱われてしまっています。
英語圏の言葉では
肩こりは
ひとまとまりのイメージとして
一つの言葉では扱えないようなのです。

―この辺に、
外人は‟肩こり”にならないと
言われた理由があるようです。
(そうすると、外人というのは
英語圏の人ということですね!)

そういえば、
最近、電車の中で隣り合う
白人系の人達の姿勢が
以前に比べると悪くなったような気がします。

きっと、
以前より、
英語圏でもひどい肩こり持ちとかが
増えてきているのではないでしょうか?

とにもかくも、
この英語圏の‟肩こり”事情は
日本語の‟肩こり”という概念は、
単純な一つの現象を
指したものではないのではない
-ということを
暗に示しています。

日本語の‟肩こり”

さて、
今度は日本語の‟肩こり”なんですが、
首の付け根~肩・肩関節~肩背部などに
重たい感じや張りや痛みを
自覚的に感じる症状の名前です。

多くの症状がそうであるように
自覚的にというのがミソです。

他の人が
肩を触って
カチカチに凝ってるとか
張ってパーンとなってるとか
言われても、
本人が
違和感を感じないので
あれば肩こりとは
言い切りにくいのではないでしょうか?

あくまでも、
本人の感覚に根ざした概念なのです。
つまり、
日本語の‟肩こり”は
「からだ」の感覚に根ざした概念なのです。
(→「からだ」と身体

医療系の言葉による‟肩こり”

さて、今度は
医療系の言葉を
使って‟肩こり”を
とらえなおしてみましょう!

次のような
表現が打倒ではないでしょうか?

肩こりとは、
血液のめぐりが悪くなり、
酸素や栄養を肩の筋肉が
キチンもらえない状態

―である。

また、
血液の巡りが悪いのですから、
筋肉が働いたあとに出てくる老廃物(ゴミ)も
溜まりやすくなった状態である

―とも言えるはずです。

これが本当になら、
肩の血液の流れがよくなれば、
肩こりは解消するということになります。

つまり、
肩こりを治めていくには、
血液の流れをよくすれば良い
ということになります。

‟肩こり”が弛む感覚とその場しのぎ

お風呂に入ったり、
マッサージを受けると、
一時的にせよ、
肩こりがゆるむのを感じるのは、
血液の流れがよくなり筋肉に
酸素や栄養が供給され、
たまった老廃物が
運び出された状態になるからです。

けれども、
たいていは一時的な解消に
終わってしまいます。

肩自体に刺激を与えて、
血行を良くして
肩の疲労を取り除いても、
その後すぐに、
血液の流れを
悪くしている一段の上の要因が働いて
再び肩こりの状態へと
逆もどりしていってしまうためだ
と考えられます。

‟肩こり”の背後にある要因

つまり、
肩の血液の流れが悪くなってしまっている
その背後にある要因を取り除くことが、
肩こりは治めるということの根本に
近づくことになる
ということになります。

肩じたいに刺激を与えて
肩こりを解消することが、
悪い方法だとはいいません。

一時的とはいえ楽になりますし、
第一すご~く気持ちが良い。

ひどい肩こりが急激にゆるむ感覚は、
何事にも、まさる快感です。
落差が大きければ大きいほど、
弛んだ時の快感は大きいです。

けれども、
多くの強い快感がそうであるように、
依存症的な性格を帯びています。
大きな満足感が得られるが故に、
より深い解決法へと行く道筋を
自らふさいでしまうのです。

(この快感を求めて、
肩がこるような生活や考えへと、
わざと自ら追い込んでいるのではないかと
疑いたくなるような方に
以前お会いしたことがあります)

まあ、
そこまで行かなくても、
一時しのぎを繰り返してしまう
というパターンにその満足感故に、
はまりこんでしいやすい
というのは誰もが、
うなずく所だと思います。

背後に控える要因を相手にしよう!

そこで、
私はいつも
一時的な快感に目を奪われずに、
もっと後ろに控える要因に
手をつけていった方がいいんではないのか?
と提案しているのです。

では、
その背後の要因と
考えられるものを上げてみましょう。

  1. 負担のかかる姿勢
  2. 過緊張・過弛緩
  3. 流れる血液の状態が悪い

の3つに集約出来ると私は考えています。
これは肩じたいに焦点を当てた時に、
血行の悪くする要因を簡潔にまとめたものです。

ちょっと、
考えてみるとすぐにわかるように、
1)~3)の全ては、
全身との関連で起こっていることばかりです。

つまり、
肩だけに注目を集めて
肩だけを相手にしていては、
ひとつ奥まった所ある要因を
相手することは出来ないのです。

肩こりの要因をもっとよくみる

では、
各要因をもう少し詳しくみてみましょう。

1)負担のかかる姿勢

私たちは重力のある地球の上に
暮らしています。
つまり、
物質である身体は
絶えず地面に引っ張りこまれようとしている
ということです。
これは、
体がいつも重力に抗って力を
使っているということです。
肩の筋肉も
例外ではありません。
地面に向かって崩れ落ちてしまわないように
絶えず肩の筋肉も
活動しているのです。
絶えず働いているので
当然、くたびれます。
特に人間は
頭というとにかく重たいものを
テッペンまで持ち上げて
二足で直立するという
曲芸のようなことをやっています。
頭を支える筋肉でもある
肩はくたびれやすいのは当然といえます。
この絶えず働く力を
減らすことこそが
肩こりを減らす
ポイントの一つとなります。

この肩にかかる負担を
減らす姿勢に関係のあるのは
首~胸~腰等の背骨
肩関節
股関節
骨盤
足首など
広く全身に渡っています。

つまり、
そういった
関節を構成する
筋肉や骨の使いかたを
検討するということに
なります。

また、そういった
全身の関節の動かし方を
点検するということは、
日常生活での
体の動かし方を点検するという
ことにつながります。
運動不足になっている部分は
ないのか?
過剰に使われている部分は
ないのか?
等々です。

それはとりもなおさず、
自分自身の「からだ」の動かす時のクセを
見直すということでもあります。

2)過緊張・過弛緩

a)精神的な緊張・弛緩

精神的な緊張は肩の血行を悪くします。
ひどく緊張した時に、
手先が白くなって冷たくなるのを
誰でも経験したことがあると思います。
肩でも同じようなことが起こります。

これは、
交感神経の亢進→筋肉・血管の緊張→血行不良
という経路で起こります。

また精神的な弛緩が長期化しても、
肩の血行が悪くなることがあります。
人間の身体は緊張感がなくなると
血管や筋肉が弛み血圧が下がります。
血圧がさがると抹消へ送りこまれる
血液の量が減ってしまいます。
これが長期化しても
当然、肩がこってくることになります。

これは、
副交感神経の亢進→筋肉・血管の弛緩→血圧低下→血行不良
という経路で起こります。

みてのとおり、
この精神の緊張・弛緩は
筋肉・神経・血管の
緊張・弛緩と表裏一体です。

これらの緊張と弛緩は
私達が周りの環境との
距離感をどのように
とっているかという
問題とリンクしています。

つまり、
私達の生活を
どのように配置しなおすか
ということと関連しているのです。

ブルーライトをシャットするメガネを
したら肩こりが治まったとか、
嫌いなおじさんから
離れた席に座るようにしたら
肩こりにならなかったとか
静かな環境で一日過ごすと
肩こりがましになったとか
一週間寝て暮らしたら
やたら肩がこって大変だったとか…

そういうことを暗示しているわけです。

b)神経の過剰な緊張・弛緩

精神的な緊張や弛緩が特にひどいわけでもないのに
なんらかの理由で神経が暴走して
肩の筋肉や血管を緊張・弛緩させてしまい
肩こりを引き起こしてしまうという
バターンです。

神経が暴走する理由としては
3つくらいに大別できそうです。

1つはため込んだ過剰な「からだ」のクセです。
昔、何かをした時に覚えた、
過剰に筋肉を動かすクセを(または動かさないクセを)
絶えずしてしまっているということです。

2つ目は、心臓や肺、脳や脳幹部での異常です。
代表的なものが
脳梗塞の後遺症
パーキンソン症候群
です。
心臓疾患でも神経を介した
肩こりが起こることが知られています。

そして3つ目は、
神経の働きを狂わせたり、
悪くしてしまう物質が
神経周辺に蓄積したような
状態です。

パーキンソン病なんかは
その代表ですが
恐らくもっとありふれた
症状のひどくないものが
沢山あるのではと私は思います。

例えば、
いわゆる‟浮腫み”です。
東洋医学的にみると‟痰飲”とか
湿痰”とか呼ばれてものもそうでしょう。

また、
軽い充血うっ血なんかにも
同じようなことが起こっていると
私は思います。

これらは、
東洋医学的にいって‟内邪”と
よばれるものです。
血行不良が積みかさなり
老廃物の排出機能が落ち
蓄積してしまい
その蓄積が
体の働きを邪魔すると考えられるものです。

3)流れる血液の状態が悪い

血液の状態は
内臓・・・
特に腎臓や肝臓といった臓器に管理されて
一定の状態を保つようになっています。

けれども、
内臓がくたびれてくると
この血液の状態を
一定に保てなくなってしまいます。

このバランスを崩した血液が
肩の血行不良を起こし
肩こりを引き起こすのです。

まっさきに、
糖尿病がすぐに思い浮かびます。
膵臓の働きが悪くなり
血糖値が上がった状態が続くと
肩の血管等に糖が
付着したりして血管を悪くします。
血管は弾力を失い
変形しやすくなります。
その結果、
血行不良を起こし
肩こりをひどくします。

肝臓が調整機能が
わるくなると
コレステロールや
中性脂肪といった
油の類が血中に増えすぎたり
減り過ぎたりして
肩の血管を傷めて
肩の血行をわるくします。

また、
こういった
内臓の調性機能が落ちて
血液の成分が狂いだすと
疲労物質が筋肉等にたまりだし
炎症がおきやすくなるという
側面も見逃せません。

炎症が起きやすいとは、
肩が少し疲労で
ズキズキ痛み出すような状態に
陥りやすくなるということです。

このように
肩こりは単純に
肩だけの問題ではなく
血液を介して
内臓の状態とも連動しているのです。

つまり、
肩こりを治めていくということは
内臓の調子を整えていく
ということにも
つながっているのです。

まとめ

以上書いたことを
ザッとまとめてみました。

  1. 負担のかかる姿勢
    • 頭の支え方
    • 背骨の使い方(頸椎~胸椎~腰椎)
    • 肩関節の使い方
    • 股関節・膝関節・足関節の使い方
    • 日常生活のクセ
    • 過緊張・過弛緩
  2. 精神的緊張・弛緩
    • 外部との距離感
    • 神経の暴走による緊張・弛緩
    • 過剰なクセ
    • 心臓や肺・脳や脳幹等の異常
    • 神経周辺への疲労物質等の蓄積
  3. 流れる血液の状態が悪い
    • 腎臓・肝臓・膵臓などくたびれて、血液の成分の崩れる
    • 炎症が起きやすい状態

となります。

これを見ると
こんなに沢山あるのか!!
と、ため息をつきたくなります。

さらに、
一人の人に
一つの要因なんてことは
まずありません。
複数の要因が
潜んでいることが普通です。

そして
これらの要因は互いに影響を与え合って
悪循環を形成していたりします。

どこから手をつければ良いのでしょうか?

これを知るためには
肩こりを
頭で理解した
身体の問題としてきた
思考方法を
「からだ」で感じる
感覚の問題へと
変換していく必要があります。

医療系の言葉は
身体の言葉です。
これを「からだ」の言葉へと
変えていく必要があるのです。

つまり、
頭で理解した、
肩の血行不良を
「からだ」で理解した
日本語の‟肩こり”に
翻訳していく必要があるのです。(→「からだ」で納得する)

そして、
この翻訳を通じて
日本語の‟肩こり”の内実を
よりありありとした
実感として感じることが
出来るようになるのです。

そこから、
背後に控える要因が
その絡まり合いが
「からだ」の実感として
せりがってくるのです。

そして、
この実感を通じて
自分にとっては
どの要因が大きいのだろう?
どの要因とどの要因が
悪循環を形成しているのだろう?
といったことが
あきらかになってくるのです。

それは、
‟肩こり”という
「からだ」の感覚から出た言葉を、
そこから、さらに
内実を豊かにしてくことでもあります。

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