はじめに
“腰痛”は肩こりと並んで最もごく普通に見られる症状です。この「ごく普通」というのはクセものです。周りの人が同じように腰の痛みを訴えているので、みんな同じ痛みだと勘違いしやすいのです。
「あの人はああやったらよくなったから私もそうすれば絶対よくなる」とか
「周りの同年代の人が何をやってもよくならないと言ってるから私の腰痛もよくなるはずがない」
とかいう風な決め付けに陥りやすいのです。
まず先入観を外して自分が陥っている状態を把握していくことが大切です。
腰痛のややこしさに目をむけよう!!
私達(鍼灸師)からみると“腰痛”は様々な要因が絡まりあったとても複雑なものです。一人ひとり要因の混ざり具合が異なった一筋縄ではいかないものです。この混ざり具合を丁寧に読み取っていくことが腰痛の治療にはとても大切になってきます。
“腰痛”を自分の「からだ」で感じてみる
まず、自分で感じる「からだ」の感覚という視点から腰痛を眺めてみましょう!他人が説明がしてくれることを鵜呑みにしてしまう前にまず自分の感覚を整理しておくのです。これが出来ているだけできっと簡単な対処法を自分で思いつくこともあるでしょう。
痛みを減らすことが出来るかもしれません。また、外からやってくる説明(物語)のどれが自分にあてはまるのをか考えて取捨選択していく際の大切な判断材料になります。
【腰は要】の感覚が立ち上がってくる
ある程度、「からだ」の感覚が練れてくると、腰の痛みが単に腰という一部分が悪いだけではないのが実感としてわかってきます。生活全体から来る様々な負荷が日に影に腰に影響を与えていることに気付かされるようになるのです。そして、それら様々な刺激とその反応という形で腰の状態が感じられるようになります。
つまり【腰は要】という感覚が立ち上がってくるのです。
(→腰痛①:様々な重荷を支えられなくなった「からだ」)
急性腰痛と慢性腰痛
急性腰痛と慢性腰痛の違いは
単純に痛くなってから日が浅いものと、時間がたって痛んでるのが普通になってしまったものの違いです。
そういう意味では急性腰痛と慢性腰痛は、境目のボンヤリしたグラデーションな概念なのです。それではこの分け方に大して意味はないのかというとそうでもないのです。
それは痛みを引き起こしている悪循環が日常生活の中に埋め込まれているかどうかということです。
(→好循環と悪循環…「からだ」によって選ばれたフィードバック)
(→正のフィードバック/負のフィードバック)
痛みは普通一時的なものです。身体は傷んだ所を治癒させて痛みを打ち消していくような仕組みを持つからです。痛みがなかなか引いて来ないのは、大抵、痛みが引かないような悪循環にはまり込んでしまっているからです。
急性腰痛の場合はこの悪循環が普段の生活から外れた場所で発生しており、慢性腰痛は悪循環が日常生活に埋め込まれた形で存在しているのです。
急性/慢性の腰痛が悪循環パターンをそれぞれ上げてみます
急性腰痛
怪我・無理な動作
↓
腰痛の発生
↓
痛みで体が緊張
↓
血行不良・神経の過敏化
↓
腰痛痛がさらに増強
↓
痛みで体がさらに緊張
↓
・
・
痛みが痛みを呼ぶ悪循環
慢性腰痛
運動不足
↓
体重増加
↓
腰に負担
↓
腰痛の発生
↓
痛みで体を動かさない
↓
さらに運動不足
↓
さらに体重増加
↓
腰の負担さらに増
↓
腰痛の痛み増強
↓
さらに運動不足
・
・
運動不足が運動不足を呼ぶ悪循環
急性腰痛は一時的な要因によって悪循環を形成しているのですが、慢性腰痛は日々の積み重ねの中に要因があるのです。
この区別はとても重要です。
なぜなら、一時的な急性腰痛は休んでいれば治まってくる可能性が高いからです。
反対に、慢性腰痛は日常生活からくるものなので、休んでいるだけではなかなか痛みが引いてくれないのです。
ギックリ腰から慢性腰痛になってしまったという方も痛みで休んでいる間に
慢性腰痛のサイクルに入り込んだことに気付かずそのまま休み続けてしまった方に多いのです。
(→ギックリ腰(急性腰痛))
痛みの種類
急性と慢性の違いという視点から痛みの感じを見てみると、鋭く激しい痛みは急性腰痛が多いです。場所のハッキリしないようなボンヤリとした痛みは慢性腰痛が多いです。
転倒して激しく腰を打った時のことなど思い出してもらえるとわかると思います。ズキンズキンと自然に疼いたり、少しの体の動きでズキンと激しく響いたりします。これが急性のイメージです。また、打って痛む場所を手のひらで覆うように触ると中の方から熱いボワーとした感触が込み上げてくるのを感じることが多々あります。強い目の炎症が起こって熱気を感じさせているのです。
反対に慢性の場合、朝起きた時に感じる腰全体のダルいような痛みを思い出してもらうとわかりやすいかと思います。場所のハッキリしないボヤーとした痛みです。慢性のものは熱気を感じるようなものは多くありません。反対にお風呂で温めたり、ゆっくり動かしたりすると血行がよくなりダルい痛みが減っていくことが多いです。また、そういった刺激を心地よく感じることが多いようです。
急性 慢性
鋭い痛み⇔鈍い痛み
疼く痛み⇔安静時は痛まない
熱感あり⇔熱感なし
温めたくない⇔温めると気持ち良い
動かすと痛い⇔動かすと気持ち良い
ただ、
やはり急性と慢性をキレイに二つに分けることは困難です。腰のこの部分は急性腰痛っぽいけど、全体には慢性腰痛の感じの方が強いとか、いわゆるギックリ腰のようなキッカケのはっきりした激しい腰痛の場合でも、背景には慢性腰痛のような痛みが控えていることが多いです。普段から疲れを貯めた腰が急性腰痛の土台を作っているからです。
痛みの具合を調べて、急性の割合の方が多いから先に急性腰痛の対応をしよう!とか慢性腰痛が先にあって急性に似た痛みを引き出してきているみたいだから、慢性腰痛の対策を取ろう!とか個別に考えて対応していく必要があります。
腰を動かしてみる
腰を動かしてどんな風に痛みが出るのかをテストしてみるのも、自分の腰痛がどんなものなのか理解する助けになります。
立ってみる/横になってみる
立っていると痛みが段々と増えてくるものは、腰が自分の体重を支えるのに苦労しているということです。立ち方や仕事の姿勢や歩き方なんか検討してみる必要があります。また、体重が重すぎるのかもしれませんし、端的に運動不足なのかもしれません。
横になっていると痛みが出てくる人は腰の血行不良が大きな要因と考えられます。夜間、活動が減り、体も休みに入り血圧が下がってくると血行不良が起こりやすい部分が表面化してきて痛むのです。腰に血行不良が起こるのは、腰まわりの筋力の低下や内臓の疲れ、寝る姿勢などなど様々な要因を考えることが出来ます。けれども、よく出会うのは柔らかすぎるベッドなどで仰向けに寝ることで腰が沈んでしまい腰を丸めた状態になり血行不良を起こしてしまっているパターンです。
反らしてみる/丸めてみる
立った姿勢で腰を丸めてみる/反らしてみるというのを確認しておくことはとても重要です。ここで見つけた差で対処方法が丸っきり変わってしまうことも少なくないからです。
腰を倒した方向で痛みが出るようなら普段からその姿勢をとることによって腰に負担をかけている可能性が高いです。反対に伸びて気持ち良いと感じるようなら、その姿勢をとることがあまりないということです。
例
反らすと気持ち良い
丸めると痛みが出る
↓
普段から丸い腰に
なっていて
腰を反らせることが
めったにない
骨盤と呼吸
まっすぐ立った状態で呼吸を自分の「からだ」で感じて見てください。
呼吸に合わせて腰がかすかに前後して反ったり丸くなったりしているのがわかると思います。
息を吸うと自然に骨盤が前に倒れてかすかに腰を反らせます
反対に息を吐くときは骨盤が後ろに倒れこんで腰が丸くなるのがわかると思います。
つまり、骨盤~腰の前後の動きと呼吸は自然に連動しているのです。
ここから、腰の位置が呼吸に影響を与えているし、呼吸が腰の位置に影響をあたえていることが容易に想像できると思います。
呼吸が人間の精神の状態、緊張やリラックスなんかと密接に関係していることを考え合わせると、腰が精神状態にも影響をあたえているだろうことは想像に難くないと思います。
「本腰を入れる」とか
「腰が引けてる」とかいう表現はこの体感とつながっています。
つまり、【腰は要】のモードがここに顔を覗かせているということなのです。腰痛とはある意味で息の仕方が固定してしまい、【腰は要】のモードが固定してしまい動けなくなってしまったものとも言えるのです。
横に倒してみる/捻ってみる
腰を横に倒したり/捻ったりしてみて感じてみるのも大切なことです。
ここにも私達の普段のクセがのぞいています。
重たいカバンをいつも片方にかける人は腰が片方に倒れやすくなっていたりすると思います。
また、足を組んで座るクセのある人は腰がどちらかに捻じれやすくなっていると思います。
そして、左右差のハッキリとした腰痛はこのような腰の横倒れや捻じれと関連が強いことは
動かしてみると自分の「からだ」でつながりを感じることが出来ます。
立ち姿勢と腰痛
腰痛の人を診るとき私達はまず真っ先に立った時の姿勢に注目します。西洋医学的な“腰”にしろ、【腰は要】的な“腰”にしろ、まず上半身の重さを支えているのが“腰”だからです。この支え方を観察することが第一歩となります。
反り腰
骨盤を前へ倒しこんで腰を反らせてお腹をつきだしているような姿勢をとる腰を“反り腰”といいます。
この“反り腰”「からだ」が取る一つもモードから抜け出せなくなってしまた状態の一つでしょう。
“反り腰”の人は腰を丸めるように前屈すると気持ち良いと感じる人が多いです。
丸い腰
反対に骨盤を後ろへ倒して腰を丸くしている方も大勢おられます。特定の呼び方はないのですが、よく“丸い腰”と呼ばれています。
“丸い腰”も抜け出せなくなったモードの一つです。
“反り腰”とは反対に“丸い腰”はノビをするように腰を反らせるという姿勢で気持ち良いと感じる人が多いです。
反り腰と丸い腰
どちらも腰痛の重要な要因なのですが腰が倒れていく方向が全く違います。上半身の重さをのせた骨盤が前へ倒れていくのを腰がこらえているのか後ろへ倒れていくのをこらえているのか違いです。この違いは同じ腰痛でも非常に大きな違いです。腰痛を治していく対策を考える上でも全く異なった方向で考える必要がでてきます。
左右で傾いた腰
重いカバンをいつも片側にかけていたり
いつも同じ方向へ横座りしたりしているひとが多いです。
捻れた腰
捻じれた腰は、“反り腰”と“丸い腰”が左右で別々に起こったような状態です。
その上で“反り腰”か“丸い腰”かどちらかに偏っています。
それに大概、“左右に傾いた腰”も伴っています。
足を組んだりする習慣や
利き足に極端に頼るような体の動かし方をする人に多くみられます。
これらの“腰の姿勢”は【要の腰】が取るモードのパターンが固まったもので
中間的な様々なグラデーションがあるのが普通です。
なんでその姿勢で固まってしまっているのかを考えていくことが
生活を見直していくための大切な材料となります。
痛みの変動
温めると痛みが減る腰痛/減らない腰痛
温めると楽になる腰痛は多いです。
これは、体が冷えているので(特に下半身が)血行が悪くなっていると単純に考えてよいと思います。
冷えないようにしてあげたり、お風呂でよく温まったりするのが大切になります。
けれども、
温めてもそれほど変わらない腰痛もあります。
これは、冷え以外にも様々な要素のからんだ腰痛ということになります。他の要因のことも考える必要があるということです。
たまに、
強い熱感を伴ったいて、冷やしたら痛みがましになる腰痛があります。怪我や打ち身などの急性の場合が多いです。局所で炎症が強く起こっているのです。
この場合は冷やして痛みを一時的にゆるめるのもありです。
けれども、炎症が治まってくるとやはり
温めてあげるのが良い状態へと移行してきます。
血行が良くなければ損傷部位は修復されるのが遅れるからです。
この境を見極める基準は冷やして気持ち良いかどうかだと思います。
冷やして気持ち良さを感じないようになったなら
温めていく方が良いことが多いように思います。
動かすと痛みが減る腰痛/増える腰痛
体を動かしていると痛みが減る腰痛というのは運動不足などで血行不良の要素が強い腰痛です。温めるとましになる腰痛とかぶる部分も多いです。
反対に動かしていると痛みが増えて来る腰痛というのは、
筋肉が衰えていたり、血液を巡らせる力自体が落ちてしまった状態で、すぐに疲れがたまってきて痛みを発生させていまうのです。
つまり、動かしていて痛みが強くなる腰痛の方が状態としてはひどいと言えます。これは、疲れが慢性化して長期化した結果、「からだ」が衰えてきていると言いかえることが出来るケースだと思います。
1日の中の変動
一日の中で腰痛の強さに変動があるのが普通です。
この変動を観察することによって見えてくるものがあります。
例えば、
朝起きた直後は腰の痛みが少ないのに、
起きて動いているうちに段々と増えてくるようなものは、
腰が自分の体重を支えるのに苦しんでいるということです。
体重が重すぎる/足腰の筋力が足りない/
負担がかかるような姿勢している・・・などなど考えられます。
反対に動いている間は腰は気にならないのに
横になって寝ていると段々と腰が痛くなってくるような腰痛があります。
これは血行不良の腰痛です。横になっていると脈拍・血圧が下がり身体全体に巡る
血液の循環量が減ってきます。
すると、疲労や老廃物がが解消されずに腰が痛くなるというわけです。
細かく観察していくと一日の腰痛の変化から様々なものが読み取れます。
天気による変動
湿度の高い日に痛みが増える人
雨の降る前に痛みが増えだし降り出すと減る人
寒い日に痛みの増える人
などなど様々あnパターンがありえます。
湿度は「からだ」の浮腫みと関係していることが多いです。
寒い日に増えるのは冷えが関係しています。
精神的なストレスや緊張に伴う変動
精神的な緊張やストレスが全身の血行を悪くすることを考えれば
ストレスが腰痛を痛みを強くするのなんて当たり前でしょう。
最近はこの方面からの研究が沢山なされているようです。
中には、ほとんどの慢性腰痛がストレスからくるものだと言ってる人もあるようです。
これは多分言い過ぎだろうとは思いますが、精神的ストレスがない人というのも考えにくので、
痛みの変動や発生に部分的に影響を与えているだろう人はかなり沢山いるはずです。
その上に、【腰は要】というメタファーっぽい考えをのせると
「からだ」を支える腰≒その人の生活を支える土台という部分に
集中して痛みが発現しやすいということもなんとなくうなずけます。
便通・小便・生理
腰痛の一部は内臓の不調と関連していることがよくあります。
こういう腰痛は大小便や腰痛といったもので
変化を感じることが多いようです。
生理前に腰が痛くなり生理が始まると痛みが減っていく
あるいは
大便が溜まると腰が痛くなり
排便すると痛みがなくなるなどなど
内臓の動きと腰痛の変化の関連にも
注意を払いたいです。